THE VASE

Valuable works like no other.

   STORY : 困難・挑戦・生きた素材

幾重の困難を超えてたどり着く、唯一無二のかたち。

THE VASE
それは既成の手法では決して辿り着けない、私自身の感性と経験、そして探求によって生まれる作品です。制作には、数えきれない試行錯誤と、思考と手が重ねる対話があります。

最初の試練:目に見えないものを形にする

ベースとなるコンクリートの制作は、極めて繊細な感覚を求められます。
扱う素材は、限られた条件下でのみ得られる特別なもので、一瞬の判断ミスも許されません。内部は目に見えず、外側から得られるごくわずかな手がかりをもとに、内側の状態を“感じ取り”ながら形を整えていきます。
完成したかに見えるベースも、そこからさらに時間をかけて水中で静かに育てるように仕上げていきます。目に見えない工程を経て、ようやくひとつの「存在」として立ち上がってくるのです。

第二の試練:ガラスとの融合という対話

私の手から生まれたベースと、炎の中で命を宿すガラス。
このふたつを結びつける工程は、まさに“対話”であり、一度きりの真剣勝負です。
高温により形づくられるガラスは、こちらの意図と自然の偶然が交差しながら、二度と再現できない表情を見せてくれます。 そのガラスが冷め、ようやく確認できるまでの時間は、結果がどうであれ「受け入れる」覚悟を試される瞬間でもあります。

最終工程:ひとつに響き合うかたち

最後に、ガラスとベース、ふたつの個性が本当に呼応しているかを確かめます。
それぞれが美しくとも、組み合わさって初めて「作品」として成立する——その緊張感が、私にとっての創作の核心です。
この作品は、私にしかできない素材との向き合い方、そして感覚の積み重ねの結果として生まれたものです。 多くの壁に直面しながらも、それらすべてを超えてきたからこそ宿る「深み」があります。



完成を求めず、完成を超える。

試行錯誤の16年。
完璧ではないからこそ、美しい。
繰り返す試みの中で生まれる、私だけの答え。 

挑戦。

異なる素材が一体となること——それは自然の摂理に抗うような、限界への挑戦です。
特にコンクリートとガラスという相容れない存在を融合させる試みは、長らく「不可能」とされてきました。
コンクリートは超高温に本来耐えられない素材です。特にコンクリートは複合材料のためにひとつとして同じものがなく、どれも唯一無二の性質を持ちます。そのため、ガラスを吹き込む過程でわずかな違いが大きな破損に繋がることもあります。技術では補えない「個体差」との対話が、常に求められるのです。
数え切れないほどの失敗、諦めかけた試み。その積み重ねの中で、ようやく破損の割合は減りつつあります。けれど、いまだに「完璧な完成」という言葉にたどり着いたことはありません。
なぜなら私にとって、この作品は完成を目的とするものではないからです。
むしろ「完成しない」という宿命そのものが、作品の価値であり、本質です。 一つひとつの制作は、新しい問いへの挑戦であり、まだ見ぬ美への探求です。 だからこそ、すべての作品は希少で、二度と同じものは生まれません。



それはまるで、呼吸する素材。

コンクリートは、静かに、確かに、生きている。
それぞれの時間を重ねて、ようやく一つの“存在”になるのです。 

一つひとつに宿る「固有の時間」

コンクリートは、無機質な素材でありながら、まるで「生き物」のような性質を持っています。
私の手により形づくられたコンクリートは、その瞬間からゆっくりと、そして確かに変化をはじめます。常にわずかに呼吸するかのように乾燥収縮を繰り返し、光や空気、水分との出会いを通して、色も質感も時間とともに育っていく——それはまるで、鍾乳洞の石灰石が歳月をかけて成長していくような過程です。。
硬化養生の期間は、あらかじめ決められたものではありません。
私は定期的にひとつずつの状態を見守り、触れ、微細な変化を感じ取りながら、それぞれに必要な「時間」を与えています。
そのため、同じ時期に制作を始めたベースであっても、完成までの期間には1ヶ月、時には2ヶ月以上の差が生じることもあります。それは、「作品としての命」が、それぞれ異なるテンポで成熟していくからです。
このような極めて個別的かつ長期的な制作工程は、一点一点が極めて希少であることを物語っています。
どれもが唯一無二の個性を持ち、同じものは二度と生まれません。

  • 次の物語

    「普遍」というコンセプトを核に据えた三つのエピソード。